ネック・リセット(ダブテイル・ジョイント)


ネックはロッド調整により、ボディとの接合部からりヘッド側の湾曲を調整することが出来ます。
経年変化等によってネックとボディとの接合自体が歪んだり、トップ板がふくらんだりするとネック・リセットが必要となります。

ネックリセットは比較的大がかりなリペアですが、ギターを長く使っていくためには必ず必要になる作業です。

接合形式には色々な方式がありますが、今回は典型的なダブテイル・ネックジョイントのネックリセット・ケースをご紹介します。

ネック状態の確認

6弦12フレットの弦高です。5mm弱あります。


同じく1弦側の弦高です。4mmあります。


1弦と6弦のサドル高は1mm前後です。


1弦サドル高も同じ程度の高さです。


6弦側ヘッド側からネックを見ました。ネック接合部が「く」の字になっているのがわかります。


同じように1弦側から見た様子です。


ネックをロッドで出来るだけ直線に近づけた上で、直定規を当て、そのまま直定規をスライドさせてブリッジに当ててみます。


ブリッジ面より下のこの位置にフレット面が向かっていることがわかります。この時点でネックリセットが必要との判断が出来ます。

目標フレット面の設定


弦を外して、もう一度フレット面のブリッジ高を測定します。目盛りはちょうど5mmを指しています。


ターゲットのフレット面を8mmに設定し、オリジナルよりも3mm上げることにします。(計算式からヒール部は約1mm削ることになります)
ネック取り外し

15フレットをハンダゴテで暖めながらゆっくりと抜いていきます。

フィンガーボードを傷つけないようにゆっくりと抜いていきます。

フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。

フィンガーボードをボディから外します。これまではこのアイロンを使っていましたが、輻射熱と熱の変化がギターにダメージを与えないように注意が必要でした。

今回は温度コントロールが可能でかつ輻射熱も少ないラバーヒーターを使用します。

ヒーターを当て木との間にサンドイッチします。


クランプで当て木を固定し、ヒーターに通電します。徐々に温度を上げていきます。


フィンガーボードの接着剤が軟化しているところにスクレイパーを差し込んでいきます。

両側から徐々に奥の方へ進めていきます。

終端まで浮かすことが出来ました。

ネック取り外し専用治具を取り付けます。

ネックは真ん中のボルトによって押されます。(この段階ではまだ押しません)

蒸気発生にエスプレッソマシンを使い、耐熱ホースを接続します。

先ほど開けた、15フレットの穴にノズル先端を差し込み、蒸気注入を開始します。

かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。

数分後、カクンと音を立ててネックが外れます。

これがダブテイル・ジョイントです。


まだ蒸気の熱さが残っている間に古い接着剤の跡を取り除きます。

ネック角度調整

ネック角度は接合部を切削することによって調整します。ヒール部削り取り目標位置にマスキングテープを貼ります。

目標位置直前まで45度の角度でヒール部を削っていきます。

目標位置まで削り取れました。

この削り取った部分とフィンガーボードまでを平面に切削していきます。

ヒール部からの見た様子です。1弦側が目標位置まで切削できました。

同様に6弦側も削っていきます。(削りすぎないように少しずつ進めていきます)

両方が目標位置まで切削できました。

ヒール中央部はノミを使って削ります。


ヒール部を目標位置まで下げることが出来ました。


次にダブテイル突起部分の際をノミで削っていきます。

反対側も同じように際を削っていきます。

実際には、この一連の切削作業を行いながらボディにネックを取り付けて、弦高を確認しながら進めます。

数回のサイクルを経た後、目標角度に達しました。

直線性確認〜ネックヒール部調整


ナット(ネック上端部)にマスキングテープを貼り、中央にマークを入れます。

同様にネックジョイント部(14フレット)とブリッジにもマスキングテープを貼り、中央部にマークを入れます。


これはネック直線性を確認するためのマークです。


ここで使用する治具は透明のアクリル板です。中央にケガキ線が入っています。この直線がマーク上に位置するようにネック取り付けを行います。

まずネック部中央マークにケガキ線を合わせます。

そしてブリッジ中央部マークにケガキ線を合わせます。

最後にネックジョイント部の中央部マークにケガキ線が乗っていることを確認します。

ネックヒール部の調整を行う前にボディ側をマスキングテープで保護しておきます。

ネック接合部にサンドペーパーを挟みます。

ネックをボディに押さえつけ、サンドペーパーを引き抜きます。このとき引き抜き回数を覚えておきます。

反対側のネック接合部も同様に加工します。ネックの傾きと接合部の密着性を上げます。

ある程度調整が進んだところで、一旦クランプでネックを挟み込み固定します。(接合部にはシムを挟んで強度を増しています)

アクリル透明直定規でネックの直線性を確認します。サンディング〜直線性確認を数回繰り返します。

ネック調整が終わりましたら、弦を張って見ましょう。6弦弦高が1.8mmまで下がりました。

1弦の弦高は1.2mm程度です(少し見にくい写真で申し訳ありません)

接着する前に弦を張って試奏してみます。ナット・サドルでの弦高調整可能な範囲にネック角度調整が終わりました。
ネックとボディの接合

まず接合部にシムを接着します。

ボディ側接合部の内側にボンドで貼ります。

ワックスペーパーをシムの上に重ねて・・・

端材でシムをペーパー越しに圧着します。

数時間後、シムの接着が完了しました。

次にシムとネックの密着度を確認するためにカーボン紙をシムとネックに挟み込みます。

カーボン紙がずれないようにネックを取り付けます。

ネックを取り外すとカーボン紙がくっついています。

カーボン紙を取り外したところです。全体的に密着しているのが確認できました(接合不良の場合は「点接触」しています)

HideGlue(ニカワ)を湯煎します。

HideGlue接着は手際よく作業を進める必要がありますので、クランプ、ヘラ、当て木類を準備しておきます。

フィンガーボードの裏にHideGlueを乗せていきます。

ヘラでGlueを均一にのばしていきます。

次にダブテイル接合部にGlueを塗っていきます。

接合部の反対側にも均一に塗っていきます。

ゆっくりとボディにネックを接続していきます。

専用の当て木を フィンガーボードに乗せ、メインクランプでネックを固定します。


次に当て木の上からフィンガーボードをクランプします。


さらにサブクランプで固定した後、あふれ出たGlueをふき取ります。

ネックジョイント部もあふれたGlueをきれいにふき取ります。

クランプ完了です。

このまま数日間固着を待ちましょう。
フィンガーボードの穴埋め

ネック接着完了後にフィンガーボードにあけた穴を埋めます。

爪楊枝が穴にはいることを確認します。

フィンガーボードと同じ部材で木目が似ている物を選びます。 このケースはローズウッドです。

瞬間接着剤を少し部材片に乗せます。

爪楊枝を部材片に接着します。

部材片の角を削り取っていきます。

ドリル穴と部材片を接着します。このとき部材の木目方向に注意します。

ドリル穴が埋まりました。

フレット溝用ののこぎりで埋まった穴に溝加工します。

このフィンガーボードにはバインディングがありますので、フレット溝底を平らにするために特殊なのこぎりで再加工します。

フレット溝底を平らにする要領で軽く削ります。


最後はサンディングで完了です。このギターの場合はフレット交換も行いますので、フレットを抜き終わった後、サンディングしました。

リペア後の弦高

リフレット、ナット、サドルの作製を終えて、弦を張りました。

サドル高も正常範囲に戻ることができました。

6弦12フレットの弦高が2.5mmです。


1弦12フレットの弦高は1.8mmです。とても弾きやすく、また音響特性も格段に改善されました。